数年分のストックを利用して、
主に図書館で借りた本の感想を簡潔に書いています。
本当に簡単に書いていますので、
ネタバレなどの心配はほとんどありません。
解説風で内容を賞賛する事が滅多にないのが特徴です。

『オルガニスト』
『騙しの天才』
『ナイン・テラーズ』
『猟犬クラブ』
『欧米人が沈黙するとき』
『本が好き、悪口言うのはもっと好き』
『東京ナイトメア』
『蒲生邸事件』
『未明の家』


『オルガニスト』山之口洋

’98年ファンタジーノベル賞受賞作。
日本人に馴染みのないパイプオルガンが主体の作品。オルガンはキリスト教と切っても切れない関係にあり、その造りは教会と一体化している。ピアノと同じように演奏出来ると思っていた。ところが、ぎっちょん。その演奏方法は難解且つ、ややこしい。この本を読んで、そうだよな…。建物大の楽器なんだから当然だよなぁ。とつくづく実感した。
読後、パイプオルガンの演奏を聞きたくなり、チケットまで購入したのに、当日、すっからかんに忘れていて、結局行き損ねた。あう。

『騙しの天才』桐生操

『本当は恐ろしいグリム童話』と同じ作者らの作品。
イギリス人は本当に悪戯が好きだなぁ…。騙しの天才は多々いれど、徹底していたコールさんが良い。死ぬまで騙し続けるなんぞ、楽し過ぎる。美貌の泥棒ゲオルク・マノレコスの人生も飽きがなくていい。だた、「犯罪」が目的の天才は、皆、末路が悲惨だ。所詮、悪い事は悪いと言う事か。

『ナイン・テラーズ』ドロシー・L・セイヤーズ

9人の殺人者は、あっけなく読者に判明してしまう。
名作推理ものらしいが、それには犯人探しの要素が含まれていないらしい。近代化途中のイギリス。その当時の田舎がどのようなものであったか、キリスト教徒はどうして「そんなこと」を重要視するのか、鐘を数学的に鳴らすイギリス人て何者?等々。話を構成するその他が面白いので何とか読み終える事が出来た。貴族探偵も悪くないかな。

『猟犬クラブ』ピーター・ラヴゼイ

原題「BLOODHOUNDS」。猟奇的な書名だが、中身は血みどろとはほど遠い。
ミステリ好きには、楽しく且つ記憶力との戦いを強いられる内容である。取り立てて奇をてらった作品ではない。探偵役(と言っていいのか疑問だが)のダイヤモンド警視は頭脳明晰で気の優しい大男。飼い猫に対する気配りなどは、奥さんでなくとも微笑ましく、読んだ時には思わずふふっとしてしまった。それでいて探偵らしく、アクも強い。
ただ、探偵ものの宿命として、探偵はあくまでも狂言回し。主役は「猟犬クラブ」である。
作者のラヴゼイは2度ほど英国推理作家賞を受賞している。その力量は確かだ。

『欧米人が沈黙するとき』異文化コミュニケーション 直塚玲子

作者が既に故人である事が非常に惜しまれる。
作者の留学体験と豊富な外国人との付き合い、さらに外国人へのアンケートを通して、的確に、分かりやすく、欧米人と日本人の感覚・礼儀・常識の違いを指摘している。
特に言葉の使い方の違い、感情の表し方の差は重要であると思われた。思った事は何でも口にすべきで、討論こそ楽しい知的作業だと考える欧米人に対して、言外に本音を潜ませ、表立った対立のない「和」こそ大事だと思う日本人。その他、様々な違いを知っておかなければ、外国人との余計な悪意・敵意を持ってしまいかねないこの時代。
真の理解は「あり得ない」のだということを前提として、「懐深く」が、国際化の中では大事なのだろう。
人は自分自身のこともよく分からないのだから。

『本が好き、悪口言うのはもっと好き』高島俊男

タイトル通りの本である。
お固い内容を作者のキャラクターで不真面目っぽく包み込んでいるが、流石は元大学教員、使われる知識の量が半端ではない。
主に中国・明治日本文学に造型が深く、新聞の誤字や表現の誤りについてもいちいちこだわるあたりが、作者のツッコミ体質だと思う。
ほうと感心した内容の、一つ目。
日本語は表記文字が出来る以前に、中国から漢字が入ってきてしまったので、漢字がなければ言葉に意味を持たせる事が出来ない面倒な言語体系になってしまったこと。
二つ目。
海とか、毎とかの文字は、当用漢字を書いた書家のせいで、母にあるような点々が「繋がってしまった」ということ。
あと本の書評も面白い。読んでみようかという気になる。

『東京ナイトメア』田中芳樹

全編にわたって漫画的。
この作者が好んで使う、官僚・政治家・企業の三位一体悪事を打ち壊す話。語り手になっている泉田警部補の心の声が楽しい。「嘘つきな僕を地獄に落とさないで下さい」とゆー台詞で1番笑った。内容は完全エンターテイメントで特に意味はなく、裏表紙に書いてあるマッドサイエンティストが全然マッドでないあたりが、拍子抜け。

『蒲生邸事件』宮部みゆき

二・二六事件を背景とした時間旅行者もの。
戦前の日本。時間旅行の旅先としては、1番避けたいポイントである。最悪の最中ではなく、これから悪くなっていくと知っている地点。未来を知る者には最低の場所。作者は敢えてその地点を選んでいる。
架空の蒲生邸で繰り広げられる事件のてん末は、未来の人間によって少し修正される。『ターミネーター』では、過去の修正により未来も変えてしまったが、蒲生邸での修正は歴史は絶対に変えられないという前提に立って行われる。時間旅行者をテーマにした場合、この「変えられるか、変えられないか」は避けられない命題である。
個人的には「歴史は絶対に変えられない」と思っているが、蒲生邸のような修正ならあり得るのではないだろうか。
「絶対」というのも可能性の1部であるから。
主役の男の子が出来過ぎる点がやや不満。

『未明の家』篠田真由美

口が上手くて美形で建築史家でホームズ的な推理が得意なでも午前中は不機嫌な大学院生と、熊と、蒼とゆー名の少年が出る建築推理本。悲劇性の薄い殺人劇を女性を喜ばせる要素豊富に展開させる。読み易い。あくまで主役は建物なのが、ミソであるが、別に探偵が美形である必要は…、あるか。