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『烏鷺寺異聞』式部少納言碁盤勝負 篠田達明
うろでらいぶん。
痛快。
碁盤上、がっぷと四つに組んで勝負するは、かの清少納言と紫式部。
控えるは、怪し気なる占術師に、権力者、武闘家、悪人ども。
技乱れ飛ぶ盤上と、裏舞台での丁々発止。
唐人が青龍刀をぶんと一閃すれば、あれ、危うし、彦士、念人の意地にかけ手刀を振るう。
平安の京の都に舞う都鳥。
烏と鷺の黒と白。
放つ、清少納言、秘儀!『頬白踊り』。
守る、紫式部、秘術!『忍ぶ草の恋』。
さあ、いかなるか、この五番勝負。
どちらも退けない二勝二敗。
定子皇后の面子にかけて、彰子中宮の懐妊かけて、最後に出たる望月の、欠けなき月の、あるよしもがな。
さあ、布石は打たれた。
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『狐の書評』狐
前述の『本が好き、悪口言うのはもっと好き』で紹介されていた書評本である。
一遍一遍が非常に良いのだが、良いが故に、それの集合体である本は読むのが辛い。
余韻に浸る間もなく、次に行かざるを得ないからである。
紹介されている本よりも文章が上手い。
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『予言者ノストラダムス』藤本ひとみ
宮廷を主な舞台とした政治物語。
もしくは権力闘争。
例の1999年予言の解釈が、一般と違う所が売りらしい。
アンリ2世に愛されなかった王妃カトリーヌとその配下、及びノストラダムスによるフランス王国救済がストーリーの要である。宗教革命吹き荒れるかの時期、フランスはカトリックとプロテスタントの抗争に混乱している。実際に使用した資料を引いてくれていないので、どの程度までが作りごとなのか分かり辛いが、物語は面白い。ただ、上下二巻の分量は重い。一気に読もうとすると、疲れる。
こうやって見ると、昔もそうそうのんびり過ごせる時代ではなかったなぁと思われる。
生き馬の目を抜くような宮廷劇の展開が早い。
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『北欧神話』
児童書の扱いを受けていて驚いた。
道理で一般所の所で探しても見つからないハズだ…。
くっ、これを探すのにどんだけ時間を無駄にしてしまったか。
かのエッダを下敷きにした神話。
短い。
この神話に関しては資料の少なさが非常に惜しい。
おのれ、キリスト教め!という気分になると、どの訳者も後書きで語っている。だが、北欧神話はまだマシな方らしい。ドイツやイギリス、フランスあたりでは、キリスト教以前の神話がミジンコ並に残されていない。
このエッダは神々の滅亡までを扱っている所が他の神話と異なる。最後までのストーリーが決まっていて、楽なためか、よくマンガや怪しい話の元ネタとして使われる。始めから滅びる事が決まっているあたりが、キリスト教的な気がするが、滅亡の予感は神話のいたる所に用意されているので、キリスト教徒があとから「滅亡」を付け加えた訳ではなさそうだ。
だが、何故、神々が滅びる話が出来たのか。
神話の背景に古代文明の滅亡を当てはめる人もいるが、如何せん、資料が少ない。(キリスト教め!)さて、その神々を信仰している人々が、神々の滅びる話を作るだろうか?
ギリシャ・ローマ神話と比べても、その点はかなり異様である。
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『人形の誘惑』招き猫からカーネルサンダースまで 井上章一
どこかで見たような名前だと思ったら、『南蛮幻想』の作者であった。
外国人観光客がケンタッキーフライドチキンのカーネルサンダースを写真に撮っていたことから、日本独自の人形文化論を展開させる所は、流石、国際日本文化センターの助教授だ。企業へのインタビューや文献を利用しての調査は楽しく、興味をそそられるのだが、文章の書き方が気に入らない。(前の『南蛮幻想』はこれで読むのを止めた。)不要になった人形を供養する所に日本人らしさを主張し、招き猫と花流界の関係にも迫る。文章さえどうにかしてくれれば、好きになれるタイプなんだがなぁ。
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『最後の刑事』ピーター・ラヴゼイ
読み始めるまでに時間がかかった。
ダイヤモンド警視シリーズ一作目。
これを読んでしまうと、もう、ラヴゼイさんが新作を書いてくれるまでダイヤモンド警視に会う事が出来ないのだ。それに、警視はこの作品で警察を辞めてしまう。後で復帰すると知っているものの、どうにも遣る瀬ない気分になる。
なかなか本が開けなかった。
図書館で借りておいて良かったと思う。返却期限がなければ、何ヶ月も読まずじまいだったろう。
ラヴゼイの堅実な聿さばきと、二転三転する容疑者。一人一人の口から語られる生涯の縮図。唐突な閃きや天才的な推理力などには頼らないストーリー展開は読んでいてとても安心出来る。
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『トルコのものさし日本のものさし』内藤正典
親切。
火傷しそうに熱いトルコ人の親切が、印象深い。(もう、本当に凄いです。)
国と国とのレベルではなかなか仲良くは出来ないが、個人個人であれば結構うまくやれる。人種・宗教・民族を問わず、人間とはどうしてそうなのか。
かつて、ドイツの空港で、友人が荷物をトイレに置きっぱなしにしてしまった。数分後、慌てて取りに行ったが、既に荷物はなかった。どうしようとおろおろしていると、トイレ掃除のおばさんが私達に声をかけてきた。おばさんは友人の荷物をカウンターに預けてくれていたのだ。
友人が「ダンケシェン」と頭を下げると、おばさんは笑って掃除道具とともに去っていった。
それが、私が知る唯一のトルコ人である。
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『殿下とパリの美女』ピーター・ラヴゼイ
探偵と言うよりは、「探偵」をやりたくて事件に首を突っ込む英国皇太子殿下のお話。
熱心な探索は評価出来るが、推理力は今二歩くらいで、実際はあんまり役に立っていない。しかし、素人探偵は得てしてこんなものであろう。パリを堪能しつつ、サラ・ベルナールが助手とは羨ましい限りである。
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『絵画を読む』イコロジー入門 若桑みどり
絵一枚に込められた寓意の数々。
絵心のない感性の鈍い輩としては、この絵解きは楽しい以前に有り難いものだ。特に、ニコラ・プサン「ET IN ARCADIA EGO」の寓意が特に気に入った。絵でも、イラストでも何でもそうだが、芸術たるもの、美しさや個性の表現だけで終ってしまっては意味がない。自分以外の人間に訴えるもの、有り様を問うもの、それを込める気合いが芸術には欠かせない。
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『冷たい密室と博士たち』 森博嗣
簡潔な文章。短い心理描写。氷点下の実験。二つの死体。お嬢様探究。情報公開。三つ目の死。明瞭な密室。推測の動機。考察可能。
やっぱり『F』が一番好き。
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