数年分のストックを利用して、
主に図書館で借りた本の感想を簡潔に書いています。
本当に簡単に書いていますので、
ネタバレなどの心配はほとんどありません。
解説風で内容を賞賛する事が滅多にないのが特徴です。

『犯罪交渉人』
『黒猫ムーンヌ』
『訴えてやる!』
『伯爵婦人の宝石』
『幽霊が多すぎる』
『ハラスのいた日々』
『ほんものの魔法使い』
『謎物語』
『ディオニシオスの耳』
『チグリスとユーフラテス』


『犯罪交渉人』 毛利元貞

原題『THE NEGOTIATOR』
交渉。
人生を上手に渡っていく手段。
犯罪者との交渉は読んでいると結構腹が立つ。犯罪を犯している犯人の態度が一様にでかいから。日本の警察では犯罪者と交渉する余地はないとばかりに強攻策に出るパターンが多い。(もしくは交渉しようとして失敗するか)だが、悪を悪として裁き、糾弾するだけでは犯罪者が反省し立ち直る機会がなくなってしまう。
日本でも犯罪交渉人の育成が急務であろう。

『黒猫ムーンヌ』ようこそ!わが家へ フリップ・ラグノー

猫を飼うと言う行為はどこの国でも同じ状況を生み出すらしい。
その状況を簡潔に記すとこうなる。
ウチの子が1番!
それでも、フランスらしく洒落た語彙が良い。

『訴えてやる!』ドイツ隣人間訴訟戦争 トーマス・ベルクマン

『Giftzwerge(あのクソ野郎)』
最初の5つ6つで読むのを止めた。訴訟のネタが変わるだけでその戦争振りの凄さは全く変わらないから。
アメリカ人ならこんな一銭にもならない訴訟は起こさないだろうし、フランス人なら不干渉を気取るだろう。鍛練された日本人なら婉曲に注意を促すだろうし、イギリス人は…、さて、どうするか?
まぁ、隣人に何の不満もない人間など存在しないし、人間と言う存在に満足する人間もいないのだ。多分。
要はコミュニケーションの不足がもたらす現代的な事態なのであろう。
何にしてもたかだか、たかだかあれだけのネタで自腹で裁判を起こすとは…。御苦労なことでございます。

『伯爵婦人の宝石』 ヘンリー・スレッサー

他人を嵌めようとした人間が自らの罠に引っ掛かる短編集である。以上。

『幽霊が多すぎる』 ポール・ギャリコ

『Too Many Ghosts』
この作家は何でも大人の童話が得意で有名らしい。
故なのだろう、この作品では誰も死なないのに、探偵が出てきて事件を解決しようとする。
犯人は幽霊。
振りをしているのが誰であるかはすぐに分かる。だが、この作品全体を包む柔らかさが心地よい。主人公の人柄がそうさせるのだろう。何よりも死者が出ないのがいい。
探偵とは、死者を出す前に活躍すべき職業なのだ。

『ハラスのいた日々』 中野孝次

子供のいない中年夫婦が犬を飼うと、家の中で犬の存在が非常に大きくなる、という随筆。
文中で紹介されていた『犬の年』と『平凡』が読んでみたくなった。
ただ、犬を飼う前にはきちんと犬の事を勉強してからの方がいいと思う。(犬について知らなさ過ぎたこの夫婦…)

『ほんものの魔法使い』 ポール・ギャリコ

『THE MAN WHO WAS MAGIC』
現代に対する寓意に満ちた本である。
だが、ギャリコの姿勢は暖かい。『幽霊が多すぎる』でもそうであったが、愛すべき少女たちへの、弱い立場のものへの視線が常に優しいのだ。言葉を話す犬のモプシーの活躍も小気味良く、子供にはお勧めの物語だ。
惜しいのは表紙の少女が本当に可愛くない事。あれではちょっと読む気が削がれる。

『謎物語』あるいは物語の謎 北村薫

ミステリー好きの本。
謎を書く者として、トリックと先例について多くの作品を挙げながら千々に語っている。お気楽な体裁だが、底の深い読書歴があってこそ書ける内容だ。

『ディオニシオスの耳』 湯川薫

文章は上手くない。
言葉が所々足りないのだ。
内容は物理学を応用したミステリーで、犯人探しより犯罪を犯す舞台装置の方に重点が置かれている。真犯人は半分くらいで分かる。探偵役の学者さんにもう少し人間的な厚みを加えられたらもっと面白かったと思う。

『チグリスとユーフラテス』 新井素子

図書館で予約が集中していたため暫く放っておいた本。
話題になっただけあって、なかなか面白かった。ただ、男性が読んでもあまり楽しくないのではないだろうか。
人生の意義。
子供を産むという事。
残された最後の子供。
作者は5人の女性を通して、悩ませ、考えさせ、喋らせる。
種族として独りぼっちで残される事。
人間は増え過ぎるくらい増えた。
しかし、絶滅したドードー鳥や、2度と戻らない失われた種たちはどうなのだろうか。種として最後の1人となっている生き物は無数に存在する。人類最後の子供、ルナは、この世界でありふれた存在なのだ。