『失跡当時の服装は』 ヒラリー・ウォー
原題『LAST SEEN WEARING…』
地味な、犯人捜しである。
しかし、こうもアメリカの警察が親切だったとは知らなかった。1950年代当時は現在ほど行方不明になる人も凶悪犯罪も少なかったのだろうか。今では、日本でも行方不明者の探索にこんなに手間を裂いてはくれない。マスコミの注目を浴びた時には熱心に捜査をしてくれるらしいが、話題にも乗らない行方不明者はたいてい身内が捜す他ないのだ。アメリカでは探偵も人捜しには二の足を踏むそうだ。
この作品の刑事さん達は非常に熱心に捜してくれるのが良い。署長さんと部下の会話も悪口の中に、味があって楽しい。話はひたすら地味に進む。この手間ひまかけたつくりが好きだ。
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『刻謎宮』 高橋克彦
作者はこの話を楽しんで書いていると思う。歴史上の有名人を縦横無尽に使って時間にまつわる冒険をさせるのは確かに面白いだろう。坂本竜馬、沖田総司、アンネ・フランクにヘラクレス、マルコ・ポーロ…。坂本竜馬が敵役というのもありそうでなかなかない発想だ。ただ、これ、どうやって終わるのだろう。毎回、毎回、ぎりぎりで逃げちゃうもんな、竜馬さん。
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『エーデルヴァイス海賊団』ナチズム下の反抗少年グループ 竹中暉雄
副題が全てを語っている。
日本の軍国主義化では、堂々と積極的に体制への反抗を示した少年は皆無である。(少なくとも私は聞いた事がない。あってもたいてい「自称」に過ぎない)だが、あのヒトラーのナチズム下では何千人もの少年たちが、ヒトラー・ユーゲントを襲撃するなど、「気に入らない」ことをはっきりと大人たちに伝えていた。彼らはナチズム下において教育を受けた世代である。だのに、何故、ナチズム体勢へ反抗したのか?体制側も大いに困惑したようだ。だが、彼らの不可思議な所は、それだけナチズムの体勢に「反抗」したくせに、いざ、軍隊に入る時は生っ粋の体制ど真ん中にある武装親衛隊を希望する点だ。ヒトラー・ユーゲントを襲撃したのも、そのいい子ぶりや、子供としての生活が今までと変わってしまった事が気に入らなかっただけのようで。
反抗少年とは、案外大いに保守的なのかもしれない。
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『扉を開けて』 新井素子
この作者の書き方はいつもこうなのだろうか。常に女性の主観で物語が語られ、終わる。この作品は一時期かなり話題に上がった記憶があったので、『チグリス…』の次に読んでみたのだが、話がかなりスピーディー。あっという間に行って戻ってくる異世界もの。恐らく、元の世界に戻った時、時間は全く経っていないのだろう。
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『旅涯ての地』 坂東眞砂子
上下ニ段でこの頁は辛い。いちいち背景描写に力が入っているから、もっと辛い。何が言いたいのか、最後までいかないと分からないから、さらに辛い。だが、何とか読み終わった。
白黒はっきり付けないと気が済まない欧米的な考え方が私は嫌いだ。この作者も同じようなのだが、結局言いたかったのは、キリスト教の考える「罪」ってばかばかしいってことのようだ。
わざわざ現地にまで住んで書いたのだから、丁寧に描写したいのは分かる。が、読む方は辛いのだよ。細かく書かれたって面白くないものは面白くないのだ。それに、結局、はじめからかなり悟っている主人公カケイは最後に到るまでほとんど心情的に変化がない。ので、途中をすっとばして最後だけを読んでも言いたい事は分かったのだ。
あー、疲れた。
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『グリフォン・ガーデン』 早瀬耕
石造りのグリフォンに囲まれた研究所。戦前は日本陸軍の建物だった所だ。ここには口外秘事のバイオ素子コンピューターがある。
主人公の「私」が働く事になったそこは、森に囲まれ、謎に包まれている。そして・・・。
この話は作者の「卒論」の一部だそうだ。
話は兎も角、各部の表現が面白い。
コンピューターは「いい加減」が出来ないから人間には近付けないとか、認識されない世界、自分が見たり聞いたり触ったり出来る範囲外は膨大で、我々は静寂に包まれた暗闇の中に入るとか、また、口に含んだ冷たい水が体温と同じになるためには、その水が200CCだった場合、5200カロリーのエネルギーが必要だとか、視点が良い。
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『ディール・メイカー』 服部真澄
日本人の苦手な題材を上手くさばいている。
「ハリス・ブラザーズ」のモデルは黒い鼠をかかえたキャラクター・メーカーだろう。もともとあまり好きではないし、あの生き馬の目を抜くような内情は、恐らくほとんど同じだと思う。自分の儲けのために会社を犠牲にする。終身雇用制度が保障されていない社会では、それが普通なのだろう。自分が出て行った後のことなんてどうでもよい。究極に個人の利益を優先させるのなら、他者の大きな犠牲が必要不可欠。それが分かりやすく出る地、アメリカ。
作品の中では主人公シェリルがそれに気付いて後悔する場面がある。そして、彼女の敵も最後の場面で思い知らされる事になる。ゲームに夢中になっている最中には気がつかない。ゲームの駒にも命が、感情があるということだ。
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『消えたドードー鳥』 ジェーン・ラングトン
『Dead as a Dodo』
1999年、アメリカ、カンザス州の教科書から、進化論が消えた。彼らがそのように神を信じている事が我々には信じられない。アッラー、エホバ、ゴッド。心の底からそれらの存在を疑わない事が信じられない。疑う事を怖れ、疑う事を罪だと言う。
『アジア・ジレンマ』と併せて読んでいたら、なかなか興味深かった。
探偵役の元刑事博士も「ダーウィン」を楽しみつつも翻弄されていたが、彼の「殺神者ダーウィン」はちと早いと思う。ダーウィンは確かに創造主としての神を殺したかもしれないが、「神」という存在を人々の心から消しさってはいないのだから。
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『ブラジル蝶の謎』 有栖川有栖
不自然な設定以外特に印象に残る所はない。初めから推理が目的の話なので、犯罪があっさりしているのが良い。
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『アジア・ジレンマ』 青木保
新聞の書評から読む。
欧米的なものの見方とアジア的な考え方。
どうすり寄せて行くか…、それを思考する本が最近多いなぁ。
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