数年分のストックを利用して、
主に図書館で借りた本の感想を簡潔に書いています。
本当に簡単に書いていますので、
ネタバレなどの心配はほとんどありません。
解説風で内容を賞賛する事が滅多にないのが特徴です。

『鎌倉大仏の中世史』
『吃逆』
『名探偵登場』
『八月六日上々天気』
『イローナの四人の父親』
『日の名残り』
『クロへの長い道』
『骨のささやき』
『日韓・歴史克服への道』
『白い激流』


『鎌倉大仏の中世史』 馬淵和雄

北条氏には謎が多過ぎる。
先ず、出身が曖昧で、資料も少ない。また、三代執権泰時以降は誰も彼も早死にで、その死に様もいちいち気に掛かる。
そして、鎌倉大仏。
誰もが知っていて、しかし、誰が何のために作ったのか全くと言って良い程分からない。
謎の大仏である。
奈良の大仏の方が有名で必ず歴史の教科書には載っているが、実際の所、「あれ」はとうの昔に「奈良」時代の大仏ではない。過去の威光を背負った新しき仏で、「奈良」は極一部にしか残っていないのだ。
鎌倉の大仏は全てが「鎌倉」時代のもので、物質的な歴史の古さでは奈良の大仏に余裕で勝っている。しかし、歴史の教科書に「奈良の大仏の作り方と、その建造理由」は載っていても、「鎌倉の大仏」は下手をすると写真すら載っていない。
これは差別だ。
明らかに明治以降の西日本優先の歴史認識の弊害である。
「謎」が多過ぎるから放っておけなどというのは、学者のすることではない。
鎌倉大仏は奈良の大仏とほとんど同じ大きさである。故に、その建造には、奈良の大仏と同レベルの政治的意図、歴史的意味合いがあるのだ。
鎌倉大仏の線画を見ると、その憂いを帯びた顔立ちややや俯き加減の猫背具合がよく分かる。何故、そんな顔をしているのだろう。どうして、そんな顔立ちにする必要があったのだろうか。
この本は誰が、何の目的で鎌倉に大仏を造ったのか。
少ない資料を元にその謎に迫っている。
建造者は恐らく北条時頼。西大寺律の忍性、叡尊が建造に関わっている。鍵は「弘長2年」にあり、しかし、翌年には時頼は死亡している。明解な答えは得られないが、真実に辿り着くヒントはそこかしこにある。そんな探索が楽しめる優れた歴史探究の本であると言えよう。
鎌倉の大仏も建物に入れた方がいいんじゃないかな…。酸性雨の被害も馬鹿にならないみたいだし。

『吃逆』 森福都

吃逆とは「ひゃっくり」のことである。
が、ひゃっくりにはあまり意味がない。要は推理もので、吃逆探偵こと、陸文挙が宋時代の都で起こる事件を解決していく話だ。だが、その推理劇の大半は彼をスカウトした周季和の如才なさに負う所が大きい。三つの話で構成されている。背景に父親に反抗する子の感情あり、国同士の攻防あり、恋愛模様ありと、なかなか楽しめる作りになっている。

『名探偵登場』 ?(作者名を書く前に返してしまった)

シリーズものになりそうな予感の作品。
ピーカートン探偵社に時代の有名人を絡ませて事件を解決させる前時代もの。勇気あるミス・ターナーの再登場を希望。

『八月六日上々天気』 長野まゆみ

この作者にしては珍しく女性を主人公にした話である。タイトルからテーマというか、最後が分かり切っている話で、特に面白くはなかった。

『イローナと四人の父親』 A.J.クイネル

『THE SHADOW』
冷戦時代の米・ソ・英・西独のスパイを父親に持つ少女が攫われた。誰もが父親である可能性を持つ四人は互いに力を合わせ、彼女を救出しようとするが・・・。
てのが、この作品の内容である。
設定からして面白いが、四人とも好い人過ぎる。スパイらしい非情さに欠けている。冷酷無比な人物達だと話が成り立たないので、四人とも娘に金銭的援助を送り続けるいい男・・・。
と見せ掛けて。
作者は覆面作家で、以前の作品で裁判を起こされたこともあるらしい。多分、後に載っていた『メッカを撃て』か『ヴァチカンからの暗殺者』あたりで訴えられたのだと思う。
原題のSHADOWは「裏切り者」を現す言葉。

『日の名残り』 カズオ・イシグロ

『The Remains of the Day』
執事さんの話。
執事とは日本の侍にも似た存在である。ただ主人へのサービスだけに生きる人生。彼は誇りをもって仕事を遂行し、忠誠を尽くす。
もはや老年となった一人の執事が、そろそろ仕事に支障をきたし始めた。自分の人生はいったい何だったのか?自分は「品格」ある父と同じような執事であったろうか?主人のフォードに乗って、彼は旅の中、ひたすら考える。彼は自分の過去を悔いている。が、それは執事としての「品格」に相応しい行動を遂行したための後悔である。
未来を見ろ、と旅の終わりに出会った男が言う。
では、もっとジョークを勉強しようと、執事は考える。
そう、最近得た新しい主人のために。

『クロへの長い道』ボクちゃん探偵シリーズ 二階堂犂人

幼稚園児が探偵と、設定は突飛だが、起こる事件は割と普通の事件群である。
まあ、幼稚園児が行動出来る範囲は限られているから仕方がない。ハードボイルドな語り口調とは裏腹に、探偵報酬はピ●チ●ウパンやポッキーであることろが、御愛嬌。何となく探偵ものもここまで来たかと思わせるシリーズ。続きはどうでもいい。

『骨のささやき』 ダリアン・ノース

『BONE DEEP』
主人公のジレンマがうっとおしいが、まあまあ楽しめる作品。
両親の過去、これが全てを解決し、彼女を解放する鍵である。その人物が登場した時点で、主犯格は誰だかバレてしまうだろう。その点を覗けば、全体的な造りは良い。
ただ、ちょっと例の「彼」の設定には無理があり過ぎる気がする。

『日韓・歴史克服への道』 下條正男

韓国の大学で教鞭を取っていた人物の著作だけに説得力がある。
日本人は戦争の歴史を追求されると、口ごもって黙ってしまう悪癖があり、それが他国の不信感をあおる。外国との付き合いが下手なことは、歴史を見れば明白なのに、そこから反省・改善をしようとするまでが異常に遅い。外交がとても未熟。また、知らない、未知の外国を相手にする場合は、相手の価値基準、即ち、相手国の思想・歴史の根本を把握してから話し合いをするのが当然のことなのに、日本の外務省はそれをサボっているらしい。
最近は韓国でも儒教的な根底が段々と崩壊しつつあるようだが、国や民族の雰囲気や風潮はそうそう変わるものではない。日本はそれを知った上で、竹島、慰安婦問題に着手すべきだ。
中央集権国家はいずれ腐敗し、封建社会は団結力に欠け、問題をなおざりにする。
それ、歴史の必然。
どんな国家も過去からは自由になれない。集団故に尚更不可能。
過去を見据え、自らを掌握することで、よりよい道を模索する。グローバル化した世界の中で、今どこの国もこの問題に直面している。多様な価値観は人々の目を、民族主義、孤独な個人主義へと追い込んでいる。
世界は広がったのに、何故だろう?
圧政の中、挑戦の人々は秀吉軍の先鋒となり、自国の宮殿を焼き払った。
韓国人が秀吉の味方をした。本当のことだ。日本人だけでなく、韓国人も自ら歴史の事実を知ろうともしないで、互いを責め、避けている。
自分の非を認めることは、相手に弱味を見せることでもある。だが、弱味を見せる事は、やり方によっては信頼につながる。日本人は過去を忘れよう、忘れようとする。韓国人は自分たちこそ正しいと頑に主張する。だが、事実はそうではない。誰も正しくなどないのだ。マイナス面のない歴史など存在しない。それを認めなければ、理解にはほど遠い。

『白い激流』明治の医官・相良知安の生涯 篠田達明

ドイツ医学を日本に招聘すべく、奮闘した相良知安の話。
真っ正直すぎる人物というのは、日本では出る杭として打たれやすいが、それを歴史の中で体現している人。
薩摩・長州の争いは醜くてとても嫌いだ。いつ読んでも胸くそが悪くなる。知安も両者の軋轢に巻き込まれ、人生の大半を棒に振ってしまう。それでも、卑屈にならない所が、彼の良い所だ。まあ、暗い争いをしていたのは薩摩・長州だけではないようだが、江戸幕府崩壊後の明治政府高官は下手するとカスしか残ってないからなあ。