数年分のストックを利用して、
主に図書館で借りた本の感想を簡潔に書いています。
本当に簡単に書いていますので、
ネタバレなどの心配はほとんどありません。
解説風で内容を賞賛する事が滅多にないのが特徴です。

『チャイナタウン』
『東方見便録』
『ストリート・キッズ』
『魔術師の物語』
『ピアノ・ソナタ』
『文天祥の生涯』
『カラカウア王のニッポン仰天旅行記』
『犬と旅した遥かな国』
『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』
『戊申算学戦記』


『チャイナタウン』 S.J.ローザン

『CHINA TRADE』。
表紙の絵を見て、てっきり子どもが出る話なのかと思い込んでいたら、それが主人公の中国人女性探偵であった。探偵としてはまだまだ新米で、腕もイマイチなリディアと、頼りになるパートタイマー相棒ビル。探偵が探偵に雇われて手を貸すパートタイムがあるとは少々驚きである。が、なかなか良い考えだと思う。素人なワトソン君より同業者の助力の方がはるかに理に叶っている。
リディアとビルの2人を交代に主役として使う探偵シリーズで、「中国人」と「アメリカ人(白人)」の2人がくっつきそうでくっつけないのが毎度の流れ。お互いに憎からず思っているのに、あと、一歩の踏ん切りが付かない。「中国人は中国人と結婚すべき」という信念に従うリディアの母の存在も大きい。アメリカン「チャイニーズ」であるリディアは母への孝をないがしろにしてまで、「白人」ととは…。
探索対象もアメリカの「問題」と常に絡んでいるのが特徴。民族の境界はどこに行っても簡単には消えないようです。

『東方見便録』もの出す人々から見たアジア考現学 文:斉藤政喜 絵:内藤旬子

タイトル通りの内容。
便というよりは、トイレを探し、アジアを巡るルポである。何でも所変われば、と言うが、トイレについてはさほどバリエーションが豊富でないように思える。
水を使うか、紙を使うか、外でするか、中でするか、便器を使うか、川を使うか、豚にやるか、肥料にするか。
出すものが同じである以上、始末の方法には限りがある。人間は他の動物に比べてエネルギー効率が悪い身体であるため、便の栄養価が高い。日本は畑のこやしにしているが、これは回虫などの問題が発生することもあって、利用している国は少ない。豚に食べさせるのと肥料。今の所有効な利用法法はこれらしかないようだが、わざわざ「処理」に金をかけるよりかは、こやしの方がましなだと思う。

『ストリート・キッズ』 ドン・ウィンズロウ

『A Cool Breeze on the Underground』。
アメリカの現代推理モノを読むと、当然ながら「背景」に共通点がある。どちらかといえば、その「背景」により関心を多く持って外国モノを読んでいるため、続けて現代アメリカ探偵モノを読むと、「背景」とそれによって暴き出されるアメリカの「問題点」に飽きてくる。
この本の探偵は元ストリート・キッズ。故に、彼は疲れている。社会構造が生み出す悪しき面。個人の善だけではどうしようもない、救われ難い現実に。

『魔術師の物語』 D.ハント

問題作と聞いたが、どのあたりが問題なのか分からなかった。
先天的に色が分からない「写真家」が主人公である点は面白かったが、内容は…。
アメリカのこういう犯罪にはうんざりするなあ。

『ピアノ・ソナタ』 S.J.ローザン

今度は男の探偵が主役。
今回、リディアに振られそうになってしまうビルが気の毒。話の展開は「ビルってイイ奴」というのを全編にちりばめたような感じだ。探索対象はアメリカの都市開発問題。こういう事情はどこの国もあまり変わらないってことね。

『文天祥の生涯』殉国節義の人 雑候潤

南宋に仕えた文人の実話。
忠義は日本人の好きなネタだが、この人の場合はちょっとやり過ぎな感のある忠義だ。落ち目の南宋に忠義を尽くしまくって死ぬ。本人は満足かも知れないが、彼の場合、特に家族が災難だ。それに採用されたばっかで、ろくに南宋の世話にもなってないのに、よくあそこまで…。
で、この人の生き方が幕末の日本に影響を与えたっていうんだから、人間、何で後生に影響を残すか分からないもんだ。

『カラカウア王のニッポン仰天旅行記』 ウィリアム・N・アームストロング

王様が書き残した本でないのが、残念。
だが、国務大臣アームストロングの冷静な視点が本質をするどく突いて面白い。(自分では植民地を持っていないと思っている)アメリカ人故に、宗教や植民地政策への冷めた目で見るのだろう。随所に現れるアメリカ人としての誇りと見栄が、それを物語っている。
もしかしたら、歴史を変えたかもしれない、ハワイ王国国王の世界一周。日本の皇室の強烈な伝統に風穴を開けるまでに至らなかったのが、惜しい。

『犬と旅した遥かな国』スペイン・ポルトガル 織本瑞子

ミニュチュア・シュナウザーは賢いらしい。
文章構成と表現力にもっと力があれば文句無しに楽しめただろう。この本で確かに分かる事は、犬を連れての海外旅行は現地での「受け」がいい。しかし、出入国は面倒だ、という事である。

『信長 あるいは戴冠せるアンドロギュヌス』 宇月原晴明

ローマ皇帝ヘリオガバルス、ウァリウス・アウィトゥス・バッシアヌスの名はこの本で初めて目にした。14歳で皇帝となり、18歳の時に厠で殺された。その存在は希有である。
第2次世界大戦直前のドイツ、日本の戦国時代を行きつ戻りつ、物語は綴られていく。最近のファンタジーノベル賞受賞作としては、引き込まれる程、出来が良い。作者が素人ではないからだろう。ただ、「美形の二形(ふたなり)」という設定は食傷気味。信長はそんなに美形には見えないし、今更全然衝撃がない。

『戊申算学戦記』 金重明

そう言えば、高校時代に習った微分・積分は結局理解出来ず仕舞いであった。日本の算学者は円周率を「漢数字」で求めていたという。どひゃーである。長く平和であった江戸時代にはあらゆる分野で研究が進み、現在の日本技術につながる基礎を築いていたそうだ。
この作者は算学ものが好きらしく、他にも江戸の算学研究者ものを書いている。方程式だの、累乗根だの、色々苦手用語が出てくる割には読みやすかった。
戊申戦争のさなか、鉄砲隊を率い、東軍として戦いながらも常に算学者としての「算」を頭の片隅に置いていた結城勘兵衛という男がこの物語の主役だ。
実戦経験のない彼は、戦いではじめて死体を見て、ひどく動揺する。算学よりも寧ろこの場面の方がより印象深かった。