主に図書館で借りた本の感想を簡潔に書いています。
本当に簡単に書いていますので、
ネタバレなどの心配はほとんどありません。
解説風で内容を賞賛する事が滅多にないのが特徴です。

『ぬしさまへ』
『ifの迷宮』
『寺田寅彦は忘れた頃にやって来る』
『ライラエル』
『幻燈辻馬車』上下
『赤きマント』
『吸血鬼の壜詰』
『狐罠』
『砂漠の女ディリー』
『試すな危険!冒険野郎ハンドブック』


『ぬしさまへ』 畠中恵

身体が弱い故に妖怪達と父母に溺愛される若だんなの江戸時代設定推理短編集。
文章が小意気に上手く読み易い。
若だんなの推理力に感心するも良し、甘やかし心配し過ぎな溺愛振りに呆れ笑うも良し、そこそこにリアルな江戸の生活を楽しむのも一興。
前作『しゃばけ』から続くシリーズ作品である。

『ifの迷宮』 柄刀一

殺人推理物だが、要(かなめ)は遺伝子差別への警鐘にある。
胎児の遺伝子を生まれる前に調べ、遺伝的疾患があれば親が子をおろす、近未来の話。
この作者は色々なテーマを殺人事件に結び付けて毎度推理物を書いている。今回のテーマは遺伝。それに基づいて事件は起こり、派生し、一見つながりがないように見えて、やはり遺伝に帰結する。
人間は新たな知識を手に入れる毎に適切な判断と問題解決を強いられる。生まれる前の情報で容易くその命を断つ近未来。事件よりその世界の方が、あり得る故に恐ろしい。
その子の未来は50/50。遺伝が全てではない。

『寺田寅彦は忘れた頃にやって来る』 松本哉

書名から連想される格言を言ったのが寺田寅彦だと言う。
寅彦氏の、特に「随筆」について語る書で、初心者が寅彦を知るにはちょうど良い本であると思う。随筆の内容に合わせて描かれた画は、風景画家である作者の手によるもので、寅彦の随筆にあます所なく敷き詰められている物理的視点とその頭脳の為せる語りを視覚的に捉えやすくしてくれる。
物理学の物の捉え方はとても社会的なのだなと思った。

『ライラエル』氷の迷宮 ガース・ニクス

欧米の子供達は『ハリ−・ポッタ−』から『黄金の羅針盤』そして、この古王国記三部作へと成長に伴って読む対象を変えているそうだが、日本は…、ハリー止まりかな。
それ以前に文化的土台の違いから欧米人と日本人ではハリーの楽しみ方も異なるらしい。(欧米人が面白いと思うところを日本人は理解出来ない)日本人の子供は「みなが読む」からハリーを読むのであって、己でどこまで想像力を広めて物語を楽しんでいるのかは、疑問だ。
で、『ライラエル』である。
次回作『アブホーセン』で完結となる古王国シリーズの2作目。1作目の主人公サブリエルも登場するが、主人公は別の女性である。ライラエル。先視(さきみ)の力(=未来の映像を見る力)を持つクレア族の娘。しかし、彼女には14歳の誕生日が訪れても先視の力は現れなかった。クレアの者として、自分の居場所、存在意義を見出せないライラエル。彼女はまた、自分の父親が誰であるかも知らなかった…。
このシリーズの魅力は「死者」と戦うその独特な世界観と化け物である。
特に化け物、モゲットと不評の犬が良い。
前作より継続登場となるモゲットは、見た目は白い猫である。が、その真の姿は不明で、古き力を身体に宿している。封印の強制により一応主人公達の側についてはいるが、敵か味方か、その立場は微妙である。
不評の犬は『ライラエル』からの登場。彼女はモゲットのように主人公達をほんろうしながらも、忠実にライラエルをサポートする。モゲットと同じく真の正体は不明であり、量り知れない古き力を持つ。
この三部作の特徴は主人公がいずれも10代後半の女性で、2人とも力はあっても経験が不足し、己に自信がなく、運命から逃げよう逃げたくてたまらないのに、それでも流れは容赦なく彼女らを深みへと引きずり下ろす、という点にあろう。
『ライラエル』はライラエルが自分の出生の秘密を知り、目の前に敷かれたレールの過酷さに目を見開いて、終わる。
次回作『アブホーセン』に物語は引き継がれ、死者との戦いはまだ始まったばかりとも言えよう。完結作にどのような幕引きが用意されているのか。
前作『サブリエル』でも今作の『ライラエル』でも死した人の数は多い。化け物の犬猫の今後も合わせて、大いに先の気になる物語りである。

『幻燈辻馬車』上下 山田風太郎

主人公の干潟干兵衛は会津、西南戦争で死に損なった武士。今は亡き息子の残した孫娘を御者台に乗せて、市中を流す辻馬車の御者を生業として明治の世を生きている。
時の有名人をそこここに配した、ので有名な作品らしいが、それはあくまでも「ついで」のお楽しみだと思いたい。何故なら、この作品を貫く悟った虚しさは、2つの戦を経験した干潟干兵衛のものなのだ。脇の有名人達とは関わりがあるようで、それを語るのはいつも干兵衛であり、作者自身なのだ。
これは老いを迎えて、物事を一面だけでは捉えず、自由民権運動を哀れな敗者のあがきと見、農民を鉄砲避けにした会津藩の美しくない身勝手な負も指摘し、西南戦争を薩摩者どうしの権力闘争と知る、そんな作者の冷静な「史観」が背景にあるのだろう。
干潟干兵衛は死に損ないである。ただ一人の孫娘を生き甲斐としつつも、そのために死に損なっている武士である。
だからであろう、最後、馬車を駆る彼はその先に垣間見える死にやっと、と安堵しているようにも見える。
活劇としても楽しめる作品なので、人それぞれに読みでのある作品であろう。

『赤きマント』 物集高音

謎説きミステリである。
人は死なない。
赤きマントはトイレに出る例のアレ。あの噂話はどうして現れたのか。その大本は福井のとある事件にあった…。
奇人変人集う「第四赤口の会」にて噂、昔話、怪異の謎が次々と正体を明かされる。幽霊の正体見たり枯れ尾花となりそうでならないのが、ミソ。「謎解き」ではなく「謎説き」。あくまでも論を楽しむのが「会」の趣旨。
本もさほど厚くなく。一夜のお愉しみにふうんと感心するのもまた一興かと。

『吸血鬼の壜詰』 物集高音

ああ、成る程と膝を打つこと頻り。
頭を働かせれば読者でも用意された結論に行きつけられるのが、「第四赤口の会」の良いところ。京極ほど少数しか追随出来ない世界に走らず、高田のように他人の説を丸ごと拝借してないのが良い。今夜のネタは花咲か爺の灰に手無し娘の手、吸血鬼の壜詰、口裂け女。正体を明かされても、恐怖の消えることなき、愉しき謎説き。
さて、貴方の説や、如何に。

『狐罠』 北森鴻

古物取扱市場を舞台にしたミステリである。
だが、殺人事件より古物商売ならではの駆け引きやら舞台裏やらが主体となっている。人殺しはちとおまけくさい。重要参考人の正体が中盤で判るし、企みも明々白々。ミステリより、骨董の世界を知り、楽しむ分にはちょうど良いかもしれない。

『砂漠の女ディリー』 ワリス・ディリー

DESERT FLOWER
ソマリア遊牧民の少女がモデルとして成功するまでを、本人自身が綴った軌跡。続編あり。
本人ただ1人の視点で話が展開するため、信憑性に欠ける部分もあるが、全編を通して貫かれている「何ももたぬ人間」本来の強さがここにはある。
この本を書くことで彼女が主張したかったのは、己の成功ではない。アフリカで今も行われている割礼への抗議である。彼女自身も割礼の被害者であり、その「危険さ」は彼女の姉が割礼によって死去したことからも明らかである。
女性の人権侵害以前の、これは公然とした「口減らし」なのだ。女性の貞潔ではなく、それを口実とした強制的人口抑制が裏の目的なのではないか。人口を減らすには、男性より女性を減らした方が早い。それでいて、一夫多妻制を維持しているのが解せない。
公然と割礼を批判するディリーは現在ソマリアに戻っているそうだが、その活動状況はどうなっているのか。次書が気になる問題である。

『試すな危険!冒険野郎ハンドブック』 ハンター・S・フルガム

危険な行為の遂行方法を分かり易くまとめた本である。
基本的に法律に違反しない指南書なので、スリルはないが、こうすればいいのか、と感心したいのなら、暇つぶしには面白い本である。
副題の通り、「人喰いザメの生け捕りから時限爆弾の解除まで」丁寧に方法を伝授してくれる。