『武装解除』紛争屋が見た世界 伊勢崎賢治
★★★★☆
アフリカのシエラレオネと旧インドネシアの東ティモール、そしてアフガニスタンにおいて、紛争処理を担当した人物の著作。
現実問題として、紛争(関係)を終わらせるための<具体的な>方法が載っているので、「どうして、人間は戦争をするんだろう?どうやったら止めさせられるんだろう?」と1度でも疑問に思ったことがあり、考えても解決策が思い付かなかった人は読みましょう。つか、寧ろ読め!
講談社現代新書で¥740(税別)。高くないから。
|
|
『ぼくたち、Hを勉強しています』 鹿島茂×井上章一
★★☆☆☆
前に出た『オール・アバウト・セックス』とかぶっているネタが多くないか?対談で軽くて読みやすいのが良いが、表紙の割には、あんまり中身が濃くない気がする。同じネタを取り扱っている本としては、肩書「エロスの総合図書館」『オール・アバウト〜』(¥562、文集文庫)の方がお薦め。
|
|
『勝つための論文の書き方』鹿島茂
★★★★☆
これを読んだら論文を書くのが大変になるだろうが、このくらいやれば、確実に良い論文は書けるだろうな。私が鹿島さんの本をひいきにする理由が、そのまま書いてある。エッセイでも何でも、出だしに意外性があり、問題提起が独創的で、考察にも妥当性が十分で、結論、即ち「オチ」がしっかりついていれば、何を書いていようが、面白いのだ。
|
|
『文学的パリガイド』鹿島茂
★★☆☆☆
フランス文学に興味がないと面白くないかもしれない。ネタの扱いが上手いので、割とすんなり読めるが、元ネタが分からないとやっぱり頭に残らないな。
|
|
『関係者以外立ち読み禁止』鹿島茂
★★★☆☆
「巨乳ブーム」から「お魚くわえたドラネコ」まで、種々雑多なネタを俎上に上げて考察する。鹿島さんらしい雑文。個人的にオランダ人は(日本人にとって)最も性格が悪いと感じられる国民性だというのが、印象に残った。金に汚いから、禁キリスト教時代の鎖国中もおつき合いがあったのね。へえ×5。
|
|
白狐魔記『戦国の雲』 斉藤洋
★★★★☆
神通力を持った狐「白狐魔丸」が源平の合戦、元寇、鎌倉幕府の滅亡、と時代の節目となる戦を通して、人間を探究していくシリーズの、4冊目。
毎回、探究の対象となる人物は変わって、今回の対象は織田信長である。
白狐魔丸は戦と武士が嫌いである。
彼は戦を、狐でもする「なわばり争い」と見なして納得はしているが、生きるのに必要以上のなわばりを手に入れようとして戦うのが理解できない。白狐魔丸は人が死ぬのを見たくない。できれば戦にも武士にも関わりあいになりたくない。しかし、彼が話をして気に入った人間達は、時代の趨勢もあり、必ず戦に関わってしまう。時には、その神通力で歴史そのものを動かしながら、彼は武士の世を見続ける。
彼が好意を寄せるのは、いつも歴史や戦に翻弄される下位の者達だ。
『戦国の雲』においては、「師匠の仇」として信長を狙う不動丸という若者を、白狐魔丸は何かと気にかけて、助ける。
今回の織田信長にも、白狐魔丸は興味は持つが、好意は持たない。
普通の狐の姿でいる時に、白狐魔丸は信長配下の木戸番に面白半分で矢を射かけられた。その時、たまたま通りがかった信長は、見張りを怠った木戸番の首を問答無用で刎ねた。白狐魔丸を救うためではない。木戸番が持ち場を離れたからだ。
斉藤氏が書く信長は、自分を神とあがめさせるのも「方便」と答える、合理的な人間だ。
漆塗りの髑髏盃、長島の一向一揆。
児童書でありながら、『戦国の雲』で描写される信長は、ありきたりな戦国の英雄ではない。
『源平の風』の源義経も、『洛中の火』の楠木正成もそうであった。
但し、彼らは悪役でもない。
この白狐魔記シリーズは、戦を取り扱いながら、「悪役」がいない児童書なのだ。
そして、戦を見たくもないのに見て、関わりあいになりたくないのに関わってしまう白狐魔丸は、戦から逃れられない「庶民」を代表する視点に立っているように思われる。(神通力があるため危ない目にあっても、そうそう死なない点は違うが)
6年振りに出た『戦国の雲』で白狐魔丸は、戦国の時代を見た。
次に彼がその目で捉えるのは、幕末か、それとももっと先の戦争か。
最終的に白狐魔丸が、戦を続ける人をどう思うのか。
出るか出ないか分からない、その結論を待つのも楽しみなシリーズである。
|
|
『ルナティックス』月を遊学する 松岡正剛
★★★★☆
正に遊学の本である。
「月」についての論、文、表象を古今東西から引用し、論じ、「月」について語る。
既知のイメージもあれば、未知の神もいて、あちらこちらを引き寄せつつ、決して「月」から離れず、巡る。
生半可ではない、作者の知識量読書量に付いていくのが大変ではあるが、「月」に引っ張られる本である。
「月神譜」という月のイメージを抱く神を記した一覧が載っている。
文中にもあるが、これを見ると、ユーラシア大陸におけるシュメール(西アジア)の影響は大なり、だ。
あまたいる女神のイメージは全てここに収斂するのでは、と思える程だ。(実際にそうであろう)
「月」についての本である。それは確かだ。
だが、書いてみて思った。
これは非常に紹介(書評)し辛い。
雑多で広範囲の内容を取り扱っていながら、それら全てが表現して止まないのは、ただ1つ。
ここまで書いてもまだ書き切れないらしい、月。
科学的にも、何故、どうして、そこにいるのか分からぬ、月。
際限なく「遊びたい」のなら、お薦めだ。
---
作者の松岡氏は編集者で大学教授の肩書も持つ。
編集工学を確立し、インターネット上に編集学校のサイトがある。ここから「千夜千冊」という書評スペースにもリンクが張られていて、実は、私は最近ここに入り浸っている。(読んでも読んでもまだたっぷり残っている!)
|
|
『イタリア的考え方』日本人のためのイタリア入門 ファビオ・ランベッリ
★★★☆☆
人生を楽しみ、ナンパが好きで、男性の地位が高く、マザコン、享楽的というイタリアの見方は間違っている。つか、今でのイタリア紹介本はどれもマンネリでダメ。全くいかん。
ありがちなステレオタイプなんぞでイタリアを書くな。
イタリアという「国」はあっても、「イタリア人」は存在しないんだ。
もちっと勉強せいや。
と、イタリア人が日本語で書いた本。
著者は日本の宗教・思想史、東洋宗教史、文化の記号化を専攻とするイタリア人学者。
勿論、上記のような言葉遣いで文章を書いてはいないが、要約した内容は同じ。
日本人は国家に飼いならされて、未だに日本は単一民族、同一文化の国だと思っていて、他の国も同じように見てしまう。
イタリアはイタリア国としての歴史は浅く、首都に権力や商業が集中してもいない。
イタリアは地域の集合体であり、あの集合体に住む人々は、近代化しつつも古きを残している。
現代において、近代化とは、イギリス化、フランス化、ドイツ化、(アメリカ化)することを差している。
日本とイタリアも遅れてその近代化の波に乗った。
そして、徹底的に近代化をはかり、国家のもとに統一をはかった日本と異なり、イタリアは別の道を歩んだ。
そのズレを今までの紹介本は分かっていない。
などと、イタリア人学者が指摘する「日本人のイタリアの見方」はなかなか示唆に富んでいる。
この示唆はどこの国を見る時にも使えるし、この示唆を知らずして、異国の紹介本を書いて(鵜のみにして)はならないだろう。
どこに国にも地域性はあり、誰もが同じ顔をしているワケではない。
日本も明治になるまでは、「地域(=藩)」でできた国であった。
その後の全体主義的な教育が日本の本来の形を歪め、視点を曇らせた。
イタリア的考え方も優れてはいない。
が、知るに値する思考だろう。
著者もたびたび言及しているが、他者を知ることは己を知ることだ。
自己が書く他者には、己が反映されている。
|
|
『アイルランドの柩』 エリン・ハート
★★☆☆☆
アイルランドの泥炭層から発見された女性の頭部。
泥炭層は何百年前の死体も生前そのままの姿で残す。
彼女はきつく唇を噛みしめ、口の奥にある痕跡を残していた。
その首の切断面から、どうやら処刑されたらしい…。
彼女は、何故、殺されたのか?そして、彼女の正体は…?
という歴史ミステリーに現代の事件とロマンスを絡めた話である。
条件が揃い過ぎて、「出来過ぎ」の感が否めない展開とラストである。
あんなにスラスラと歴史の謎が解けるワケねーだろ、と最後はツッコミたくなる。
分からないまま推測で終って欲しかった。
アイルランドについての描写が良かったので、★2つ。
エンターテメントとしてバランスは取れていると思うが、私好みではない。
|
|
『花鳥風月の科学』 松岡正剛
★★★☆☆
『ルナティックス』同様、読む方の知識量が問われる。
よく「花鳥風月」と言うが、では、「花鳥風月」とは何か?を考察するため、また広範に触手が伸ばされ、巡り、畳まれる。
これで結論にいけるのか、といぶかしむくらい転がっていくが、最後にはおさまる。
「花鳥風月とは何か?」
ここにその結論を書いても良いが、あの文章に付き合ってこそのおさまりなので、知りたい人は自分で読むべし。
実は『ルナティックス』よりはるか前に購入していて、1度読んだのだが、その時はだいぶん内容に理解が及ばなかった。結論にも「??」となっていた。が、今回はそれなりにすとんと来た(完全に理解しているワケではない)ので、一応、10年↑の月日はムダではないのだな、と思った。
大学生の時に買ったんだ…。
|