バイト巫女




「あっ、こっちも拭いてね」
床のふき掃除をしていたバイト巫女に向かって、バイトではない本物?の巫女のお姉さんがそう言った。言った方は平然としていたが、言われた方は「こっち」を見て、少なからず動揺した。 なぜなら、「こっち」はこの神社の御神体で、しかも直径約80センチ、全長約2メートル近くはある…。



12月31日(バイト初日)


友人達と一緒に巫女のバイトに応募して、面接もなく、即採用(学校の特殊な事情による)されたのはもう数年以上前のコトである。昨年も行ったという友人達に「何を祀っている神社なの?」と聞いたら、「行ってみれば分かる」と言葉を濁された。その理由は、年も暮れてすぐ判明した。
12月31日、私達は時間だけ合わせて、めいめいの方法でA県にある×○神社へ向かった。
無事に神社前に集合出来た面々、先ずはお参りからと、1番大きな拝殿(通常、ぱんぱんと拝む所)へ行く。拝殿のほぼ真ん中に御神体が鎮座している。
たいがいの神社は鏡を隠すように祀っているが、ここの御神体は堂々と拝殿の真ん中にあって、しかもでっかい。好奇心にかられて、よくよく観察してみた。





台の上に横たわっている…。





太い…。





人…?





でも、何か、てかってるし、端の方は頭とか足には見えないし…。







・・・








…あぁ。












男性のアレね。










何て原始神道的信仰対象。



(あまりなものがあまりにも堂々と置かれているので、理解するまでに時間がかかりました。)



初参加バイトの頬は、御神体の正体を理解した瞬間にぴくりと引きつった。驚きを誰かと共有しようとして、同じく初参加のKちゃんと顔を合わせたら、純情な彼女の顔はもっと引きつっていた。

次に本殿(大抵は奥にある正式な御神体のある所)に向かったバイト巫女(未満)は、先を上回る光景にぴくぴくとより大きく頬を引きつらせた。Kちゃんに至っては半ば硬直している。

拝殿より小さめの御神体を奥に置いて、お社に所狭しと並ぶ…。


アレ

アレ

アレ

アレ

アレ

アレ

アレ

アレ

アレ

アレ

アレ



お社の中に、アレが所狭しと










上を向いて



林立












しているのだ。
それは正に壮観としか言い様のない光景。
見ようによっては暗がりに茸がたくさん生えているようにも見える。
ただし、ほとんど全部黒いし、勿論食べられない。(食うな)



小さいのから大きいのまでそれこそ千差万別、種々雑多。


子宝祈願。安産祈願。商売繁昌。エトセトラ。



様々な願いが込められたそれらは大半が木製だったが、中には酔狂な色付き陶製思いっきり傘が開いたキノコなものやら、古びた黒光りする年代物ものありで、見ていて飽きないが、じっくり見るのも憚られる。
これから、五日間これを見続けるのか…。
うら若いバイト巫女は複雑な表情をしながらも、まぁ、来てしまったものはしょうがない。と諦めの笑顔で宮司(神社で一番偉い神主)さんに頭を下げた。
そうして、巫女装束に着替える前に、最初のお仕事。新年に向けての大掃除(大祓)である。



そして、話は冒頭に戻る。

本殿の御神体を雑巾で拭いていいものだろうか…。
一応確認したら、「いいの、気にしないで」と言われた。お願いですから、少しくらいは気にして下さい
私はお姉さんに言われるまま、床を拭いたのと同じ雑巾で「それ」(御神体)を拭き始めた。木製で、つやつやしており、遠くからでは見えなかったが、リアルな彫りがしっかりと施されている。




ふきふきふきふき



(古いせいか)ちょっとひび入ってるな…。



ふきふきふきふき



ちゃんとくびれてるし…。



ふきふきふきふき



固い…。



ふきふきふきふきふき



木製なんだから当たり前だよな…。



ふきふきふきふきふきふきふき



何だろう側面にあるこの細かい彫りは…。(本殿は暗いのでよく分からない。)



ふき ふき ふき ふき ふき ふきふきふきふきふき



普通サイズじゃ分からんものだろうか…。



ふきふきふきふきふきふきふきふきふきふきふきふきふきふきふきふき





(すみません、引き気味になりながらも、細かく観察してしまいました。)
幸い、それほど汚れておらず、その掃除は簡単に終わった。時間にすれば10分もかかってないだろう。その後は再び床掃除に戻った。

だけど、








だけど、何で今年の最後の最後の締めくくりの日に雑巾で(御神体とはいえ)男のチ○○なんぞキレイキレイせな、あかんのだ!(悲)








それはあなたがうっかり巫女のバイトでもしてみようなか〜と思ったから。




大掃除が終わったら、次は初詣での準備。

お賽銭用にお社いっぱい大きな布を敷き、段ボールから大量のお守りを出して、並べる。
…お守りの形も御神体と同じ(←黒くて小さい)形態をしている。買ってく人がいるのか?と思ったが、大勢の人が買ってった…。キーホルダーもあったけど、アレを鞄なぞに付けるような勇者がいるのだろうか?
破魔矢を用意し、おみくじ売り機を置いて、御祈祷受け付けを設置し、臨時売り場の拡張して。などと準備に追われてうちに、大晦日の日はあっという間に暮れていく。
このバイトは泊まり込み&食事付きだったので、夕御飯はあちら持ち。神社では大したものが出ない(大抵の神社では純和食が基本)ことを知っていたので、期待はしていなかった。が、宮司さんが買い出しに行った先は何とケンタッキーフ○イドチキン。


100ピース!


流石にこの神社の宮司さん、精力的だ。

(注:どんな神社であろうとも、神社が祀る神様と宮司さんには何の関係もありません。)


…確か、100ピース全部を食べ終わるのに三日はかかったと思う。(多分にヤバイです。)




今夜は徹夜だ、たんと食え。
宮司さんの有り難いお言葉に、晴れて巫女装束を見に纏ったバイト達は嬉々として肉にかぶりついた。
そう、バイトはこれからが本番。
初詣で客を迎えるためには、体力が必要なのだ。
夜も更けて11時近くになると、初詣での人々が寒い中次々とやってくる。12時近くになる頃には、それこそ、境内中が人まみれ。寒い中よく来るね〜、バイト巫女達は電気カーペット上でそんなことを言い合いながら、しかし、同じように寒風にさらされた札所(お守りなぞを売る所)にて彼らを待つ。

ご〜ん

どこぞの寺の鐘を合図に、いっせいに賽銭が投げ込まれた。





1月1日に続く