バイト巫女



1月3日


朝、洗面所にて

「おはよー」
「おはよー。今日も寒いね」
「うん、でも、Yちゃん。夕べはよく起きんかったね」
「夕べ?」

賽銭泥棒出たんよ。禰宜(ねぎ、中間管理職くらいの神主さんのこと)さんが追っ払ったんだけど、いくらか取られたみたいでね。すっごい騒ぎだったんよ」

「へー」
「あんなに、うるさかったんに、ホントに知らんの?」
「そういえば、遠くの方でばたばた人の足音を聞いたよーな、気がするけど…」
「みんな、起きとったんよ。起きなかったのはYちゃんとMちゃんくらいだったかな」

しかし、その後、Mちゃんもぼんやりとながら、起きていたことが判明。


…いいじゃないか、泥棒来ても寝てたって。(いや、良くない。)


バイト中は神社の一角というか、8畳くらいの一室でみな(5〜6人)して雑魚寝な生活をしていたのです。



さて、3日目。

新しい仕事が追加された。
外で立ちっぱなしの寒〜い業務。

御祈祷受付である。

正月早々、誰が「はらえたまえ、きよめたまえ」を受けに来るのだろうと震えながら待っていると、おじさんの団体(3名から多い場合は2、30名ぐらい)が何件か来た。

札束ど〜んと出して、「商売繁昌」をお願いしに。

一応、御祈祷の代金は○万円と決まっているのだが、流石、会社や企業となると違う。


その3〜10倍くらいの金額を出す!


(思わず、「○万円でいいんですよ」と言いそうになってしまった貧乏人。)
小切手の場合もあったが、現金、しかもピン札でくるのが多くて、受け取る度にほえ〜と感心。
そして、お金を払ったおじさんたちはみんな揃って、あの御神体の前で頭を垂れる。
(神頼みって、受験の時だけではないんだな〜。)
どの会社も毎年来ているようで、(宮司さんとのあいさつなどから推測。)それなりに御利益があったらしい。


この日(前日だったような気もする…。)は、日暮れ頃にお賽銭の大回収を行った。
敷き詰めた布の上に這いつくばって、小銭(中には語呂の良さそうな数字を打った小切手や、宝くじなんかも…。)をひたすら木箱に詰め、運ぶ。
ちりも積もれば何とやらで、これが結構重い。
巫女達はひいひい言いながら、肉体労働に励み、隅に隠れた10円玉なんかも丁寧に拾い上げ、掃除も兼ねた作業は1〜2時間ほどで終了。
あんな大量の小銭をどうするのだろうと思っていたら、銀行の人が機械を使って、あっという間に数えて持ち去っていった。
ふうと一息ついたところで思う。

明日で、このバイトも終わりだ…。

しかし、それと同時に巫女達は、ある容赦のない現実に気付きつつあった。




1月4日へ続く




それにしても、いくら取っていったんだろう、賽銭泥棒。