◆第三十話「忍び寄る魔の手」◆
見極めると言っておきながら、まんまと相手の策略に嵌まってるよ。見極める以前に、そもそも後白河法皇とでは「役者」の出来が違い過ぎて、勝負にもなってない。
本当にムダなご遺言でありましたな、常盤様…。
<大筋>
西国へ出陣した範頼軍の成果が芳しくない。兵糧の不足から仲間割れも生じ、戦線は膠着していた。後白河法皇の義経を取り込まんとする企みは、ついに義経に従五位下の位を授けるまでに至る。母を亡くしたばかりの義経を寺へ呼び出し、共に身内どうしの争いのない世をつくろうと囁きかける法皇。鎌倉では義高の死以降、大姫が病に伏していた。心に受けた衝撃から立ち直れない娘の姿に、頼朝は義高の墓を立て、法要を営むが、大姫の容態に変化はない。そこへ、義経が従五位下の官位を受けたとの知らせが届く。鎌倉に「もののふの国」をつくろうとする頼朝にとって、法皇と義経のつながりは後々大きな障害になるに違いない…。だが、頼朝は西国の事情を踏まえ、義経の判官の地位を認めた上で、義経に屋島攻めの大将を任せる。
→従五位下
律令制下における官位は正一位から少初位下まで30階ある。そして、官位が「従五位下」以上の者が、「貴族」であり。父親が「従五位下」以上であれば、自動的に子供にも「従八位上」の位が与えられた。そして、「従五位下」以上の官位保有者には貴族の特権として、従五位下未満の下級貴族とは大いに格差のある「収入」が保証された。ただし、義経がいた平安時代末期にも同等の収入が保証されていたかどうかは疑問である。
それでも、貴族の仲間入りができる「従五位下」となり、昇殿の許可を得た意義は非常に大きい。これで義経は中央において確固たる地位を得たのだ。頼朝の「異母弟」という理由だけで軍を率い戦っていた時とは違い、中央政界に仕える武士として恥ずかしくない相応の身分となった。それもこれも、後白河法皇の引き立てがあってこそ…。既にこの時から、義経は頼朝から離反していたといえよう。
→夜盗
将来、土地を得たら働く場所を与える。だから、盗みを止めろなんて説得で強盗が改心したら、警察(=検非違使)なんていらない。
夜盗たちの感じ入った様子がバカバカしく見える脚本だった。説得するなら、もっと取り締まって相手を弱らせてからだ。てゆーか、一同に会した強盗殺人犯を見逃す義経でどうする。こんな人に検非違使を任せちゃいけません。あと、取締をする義経をちゃんと見せようね、えぬえちけい。どう見たって、義経主従が警察として真面目に働いているようには見せません。
→正妻
静なら許せるが、正妻は許せんといううつぼの考え方がよく分からん。つまり、好きでもない相手と一緒になるのはダメだということか?その前に、やっぱり静用に別宅を用意してやれよ。正妻と一緒にしておく方がどうかしている。
→頼朝
政子も言ってたが、情に厚い描かれ方をしているのは、頼朝の方だ。頼朝をもっと冷静で利に聡い、非情な人間に描くと思っていたから、意外だ。そして、政子の方がよっぽど恐い存在になっている。旦那を冷静に分析しているあたりが紛れもない政治家だ。大姫のことに関しては母親らしい…といえなくもないが、あんまり本気で心配しているようには見えない。しかし、大姫→公文所、問注所への大江さんたちの登用→政子による非難、から、なして、義経の判官認めます、ついでに平家追討の大将も、につながるのかが、よく分からない。範頼が苦戦しているからしょうがなく義経使うか、にした方が話の流れとしてスムーズだと思うのだが。
→義経
正直、こんなに魅力のない主人公にされるとは思わなかった。政治感覚がないのは当然として、その他、何につけても(女に関しても、法皇に関しても)毎回煮え切らず、態度が曖昧で、ただただ周囲に流され続けている。
鎌倉のためにもなると官位を受けていたが、そんなのは、単なる言い訳にしか聞こえなかった。兄が「もののふの国」をつくる目標があるのを知らないのならともかく、知っていて朝廷から官位を受けるのは裏切り以外の何ものでもない。頼朝が義経に恩賞を与えれば良かったとも言うが、彼に頼朝に対する本気の忠義があれば、官位を受けることはなかったろう。つまり、義経の忠義はその程度だったのだ。
また、争いのない国を望むと言いながら、彼には戦いしか「能」がない。ドラマではその根本的な矛盾が明確に提示されていない。夜盗に恩賞で土地をもらったら、仕事をやると言っていた。だが、恩賞をもらう=人殺しであることに、この義経は全然思い至っていない。
本当にただただ周りに流されるだけ、転がされるだけの義経。
彼が自分の意志で動くのはいったいいつのことなのか。期待せずに見るしかないだろうなあと予想できるのが悲しい。
→次回「飛べ屋島へ」
伊勢三郎が船乗りである設定をとことん生かしまくっている。いや、寧ろ、使い過ぎ。(焼津の船乗りがそんなあちこちにネットワークを持っているもんだろうか…)
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